
所有物が持ち主のアイデンティティの拡張となる概念 (Belk, 1988)は、身に付ける者と衣服の選択の間にある関係性を探る学術研究において取り上げられてきた。特に古着やヴィンテージの衣服を好む者たちにとって、最新ではない過去のデザインを収集し身につけることは、そのアイデンティティの形成において何か特別なものをもたらすようだ。
RouxとKorchia (2006)はなぜ人々がヴィンテージの衣服を好むのか、四つのタイプに分けて分析している:人とは被らない個性への欲求、社会的な策略と購買の効率性、ノスタルジア、そして過度な消費への拒絶である。ファッション産業の多様な流通チャンネルは、消費者に「何を着るか」の選択肢を与えている。
しかしながら、過去の研究は常に「所有物」と人々の自己表現を解明するために、その「所有者」もしくは「着用者」の側面に注目してきた。このエッセイは「衣服」そのものの存在への興味 — 衣服は常に着用者の一部である。しかしながら所有者が喪失した時に一体何が起こるのか?— に着目したい。生産された衣服は常に何らかの理由によって、人から人へ、所有者の変動が起こりうる。古着やヴィンテージの衣服は特にこの循環を体現している。では、特有の所有物と着用者の関係性は永遠だろうか — 答えは「いいえ」だろう。なぜならそのその所有者の交替のためである。「アーカイブ・ファッション」と呼ばれる、過去の貴重なデザイン・コレクションの服の収集を指す特異な分野は、その領域を考える上で興味深く、その範囲はさらに第二次世界大戦中にホロコーストにおいてユダヤ人収容者から没収された、「衣服」から発せられる、生々しさを含むイメージにまで行き着く。衣服と「所有者の不在」の関係性の研究は未開拓な分野であり、このエッセイはその分析の可能性を模索したものである。
アーカイブ・ファッションはデザイナーズ・ブランドの過去のコレクションからの洋服やアクセサリーを示す名称であり、博物館の「アーカイブ(archive)」に起因する。ファッション業界においてアーカイブ・ファッションは昨今トレンドの一つとして注目されてきた。それはハイ・ブランドの遺産の保存とともに、不必要な消費を防ぐサステナビリティとしての社会責務に関与される。
しかしながら、この解釈は少々表面的とも言える。アーカイブ・コレクション/ファッションはより多岐なコミュニティの中で取り上げられている。例えば、1990年代後半から2000年代前半のメンズ・デザイナーの貴重なピースを収集するトレンドは、ここ数年、若いファッション中毒者たちを惹きつけてきた。Yu (2020)はこの流行をFarfetchの中の記事で定義している。着目すべき点はこのような「アーカイブ」はクチュールのレガシーを強調しているのではなく、デザイナーの個人的な経験や好みを反映したデザインの中に込められた、文化的なコンテクストを重要視していることである。このムーブメントは若い男性達の「特別」で「クール」なデザインを所有したいという継続的な欲求によって始まっている。
若きファッション・ユーチューバー、 Karsten Kroeningはこのアーカイブ・ファッションの歴史について2024年に彼のチャンネルで解説している。このトレンドは2010年頃から浮上した。 Karsten はアメリカの若いコレクターであるDavid Casavantを中心人物として言及している。彼がある日、ebayで約100ドルのラフ・シモンズのジャケットを落札し、これが全ての始まりだったと伝えている。後のDavidの膨大なラフ・シモンズ・コレクションは若く新しいファッション熱狂者たちによって注目され、セレブリティが彼から借りたコレクションを身につける様子がソーシャル・メディアによって広く知れ渡るようになった。このような経緯は現代においてより一般化している。CatalaniとChung (2005)はヴィンテージコレクターとディーラー間の違いを、収集という段階で得た「感情的な成長」として示唆している。熱心なコレクターは時に彼らの収集物を他者と共有するための調停者となりうる。それは所有を通じて確固たる自信を得た収集家が、外の世界への間口を開く準備ができたことを意味し、コレクションの文化的な背景を所有する喜びを他人と分かち合うことを、より重要視するようになるからである。
日本においてもこのトレンドは注目されている。人気の男性ファッション・インフルエンサーやモデルがSNSや自身のYouTubeチャンネルを使って発信している。コレクターたちは「掘り出し物」を見つけるため、習慣的にオークションサイトやフリマサイトの画面をスワイプし続け、手に入れたピースをYouTubeで紹介し、視聴者たちとコメント欄で交流する。彼らは時にカメラを片手にv-logを撮影し、そのディテールを触って確かめるために、東京や大阪のような大都市の片隅にある実際の「アーカイブ・ショップ」を訪れる。彼らはよく掘り出し物を見つけるために「ディグる」という言葉を使う(英語のdigに起因)。これは元々DJが貴重なレコードを買い求める際に使われていたものである。
そのような「レアで貴重なピース」がその所有者たちのアイデンティティの一部となり、それらを収集し着用することによって自己満足を高める一方で、その衣服そのものは、最終的に売買によって他の所有者へと渡っていくのである。ほとんどの若いコレクター達(20代)は最新の流行に非常に敏感だが、コレクションを集め続ける金銭的余裕もない。オンラインのネットワークがさらにこの環境を加速させる。アーカイブ・ファッションの衣服は、その元のデザイナー達が込めた物語を受け継いだ過去の所有者の、わずかな痕跡を含んでいる。しかしながら、その痕跡が「選択」ではなく「剥奪」によって残された場合、衣服と所有者の関係性はどのように変わるのだろうか?
Belk (1988)はまた、アイデンティティの転向は精神病院、刑務所、収容所、そして寄宿舎など、人々が強制的にある特異な制度に従わなければならない環境の中で、個人的な所有物を剥奪された時に起こると説明する。そして個人は「共同体」として認識させられるために制服や髪型、そして態度も含め、揃いの「新しい所有物」を与えられる。ここでもBelkの指摘は個人的な財産を奪われた人々のアイデンティティの喪失についてにとどまり、その剥奪された「所有物」については言及されない。
この現象は個人の所有物とその所有者達の関係性を表す、ある強烈な存在をより想起させる — 第二次世界大戦中のホロコースト内で没収され放棄された、ユダヤ人収容者達の個々の衣服である。
Waligórska と Sorkina (2023) はユダヤ人収容者の所有物としての財産の行方を調査し、衣服は私たちの社会の中で他者と区別するための多様な役割を持つが、「身体の付属物」でもあると指摘し、「戦後のヨーロッパ内で収容者達の衣服や靴は着用され続けた」と述べている。残存したユダヤ人収容者の所有物は他者から他者へと引き継がれていった。以前、誰かの物であった衣服が膨大な山積の中から仕分けされ、非ユダヤ人の家族のもとに渡り、時には生き残ったユダヤ人達の戦後の生活を助ける財産にもなった。著者達は「アイデンティティ」に関わる、その土地と個人的な所有物の歴史について質問を投げかける—それは時間を超え、絶えず変動する状況下でどのように保たれるのか。このような事実は些細な物事として見過ごされてきたと言える。なぜなら特に混乱下において、人々は常に金銭的な意味においての物の価値を重要視し、行動するからだ。
コレクションした衣服を意識的に次の所有者へと手放していくアーカイブ・ファッションのコレクター達とは違い、当時のユダヤ人達は着ていた衣服との突然の切り離しに直面する — それらは与えられた物ではなく、奪われた物であるが、他者によって着用され続ける。個人の所有物の譲渡は、それが選択的にしろ強制的にしろ、持ち主のアイデンティティを強めるはずの関係性を、どこか曖昧にしてしまう可能性を秘めている。かつては着用者のこうありたいという姿の反映であったものが、別の誰かに付随するものになる。
ただの物質として生産され、やがて個人のアイデンティティの拡張となる衣服は、所有者よりも生き延びる。衣服はアイデンティティとなる一方、完全にではない。それは一種の矛盾した二面性を持ち、その流動性の中で、たくましい持続性と亡霊的なものが共存している。

References
Ancel, Jean. “Seizure of Jewish Property in Romania.” In Confiscation of Jewish Property in Europe, 1933–1945: New Sources and Perspectives, 43–56. Washington, D.C.: United States Holocaust Memorial Museum, 2003.
Bianchi, M. 1997. “Collecting as a Paradigm of Consumption”, Journal of Cultural Economics, Vol. 21 no 4, p. 275–289.
Belk, Russell W. “Possessions and the Extended Self.” Journal of Consumer Research 15, no. 2 (1988): 139–168.
Catalani, Anna, and Yupin Chung. “Vintage or Fashion Clothes? An Investigation inside the Issues of Collecting and Marketing Second-hand Clothes.” University of Leicester, 2005.
Roux, Dominique, and Michaël Korchia. “Am I What I Wear? An Exploratory Study of Symbolic Meanings Associated with Secondhand Clothing.” Advances in Consumer Research 33 (2006): 29–35.
Waligórska, Magdalena, and Ina Sorkina. “The Second Life of Jewish Belongings: Jewish Personal Objects and Their Afterlives in the Polish and Belarusian Post-Holocaust Shtetls.” Holocaust Studies 29, no. 3 (2023): 341–362. https://doi.org/10.1080/17504902.2022.2047292
Weston, Nathaniel Parker. “Photographs of Jewish Clothing in Nazi Germany and the Shoah: Visual Records of Economic Assaults, Exploitation, and Plunder.” TEXTILE: Cloth and Culture 21, no. 3 (2023). https://doi.org/10.1080/14759756.2022.2141033
Websites
Brown, Annie. “Why ‘Singularity’ and ‘Archive’ Fashion Is Changing How We Get Dressed.” Vogue Australia, March 6, 2023. Accessed April 20, 2026. https://www.vogue.com.au/fashion/news/archive-fashion-trend/news-story/0494d29e146eda4862434a5184f0cff3
Maria, Nina. “Hot, Trendy and Second-Hand: The Rise of Fashion Brand Archives.” 1 Granary, December 5, 2022. Accessed 20 April, 2026. https://1granary.com/industry/the-rise-of-archival-fashion/
Yu, Stephen. “An Introduction to Archival Fashion.” Farfetch, June 4, 2020. Accessed 22 April, 2026.https://www.farfetch.com/style-guide/trends-subcultures/archive-clothing-and-archival-fashion-brands/
YouTube
Junkiichikawa. YouTube channel. Accessed 26 April, 2026. https://www.youtube.com/@junki_ichikawa
Kroening, Karsten. “THE ARCHIVE FASHION PROBLEM.” YouTube video, 14:30. February 26, 2024. Accessed 22 April, 2026. https://www.youtube.com/watch?v=-vtoXzhscOc.
OUR’s. YouTube channel. Accessed 26 April, 2026. https://www.youtube.com/@OURs8888
(This Japanese fashion influencers’ channel regularly introduces archive fashion pieces from the 90s to the 00s with shopping vlogs and styling suggestions)
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